ナバホ国脱出。
ド田舎はド田舎だが、街や村の家並みからして裕福な白人テリトリーに入ったことが明白にわかる。
電波も復活。
この先のルートは、ユタとアリゾナの州境を縫うように進む。
カナーブという街。
ナバホ国と違ってキャンプ場数軒あり。
$22。
温暖なこの辺では、キャンプ場はまだRVでにぎわっている。
スライムチューブは、1日半もった。
しかもこのスライム、拭き取っても成分が残るようで、ヤスリをかけてゴムのりを塗っても、パッチがくっついてくれない。
ただスライムまみれになるだけ、一体これ何の意味があるんだ?
それよりも深刻、いよいよタイヤが限界。
強度が落ちて空気圧に負け、一部がコブのように膨張して、フレームに接触するようになった。
空気圧を減らしても接触し、タイヤの表面がゴリゴリ削れていく。
このまま走行を続けたら、間違いなくバーストする。
さて困った。
と、絶妙なタイミングで車が止まってくれた。
「Are you OK!?」
いやー、OKじゃないっす。
フィルというこの男性、以前自転車屋で働いてたそうだ。
ちょっと話しただけで、豊富な知識があるのがわかる。
彼は僕のこの日の予定地セントジョージに住んでいるそうで、そこまで車で送ってもらうことになった。
途中、コロラドシティという村を通った。
その昔、モルモン教は一夫多妻制を認めていたが廃れた。
しかしこのコロラドシティでは、今も一夫多妻制がおこなわれているらしい。
ちなみに違法。
13年前のアメリカ旅行ではアーミッシュというキリスト教の一派に遭遇して衝撃を受けたが、モルモンもなかなか尖ってるな。
アメリカは突っ込むとまだまだ面白いものが出てきそうだ。
「ザイオン国立公園には行ったか?」
「いや、行きたいんだけど日程に余裕がなくて・・・」
「よし、じゃあちょっとドライブしてみるか。」
なんとラッキー、あきらめていたザイオン国立公園へ。
ザイオン国立公園内には自転車歩行者通行禁止のトンネルがある。
知らずにここまで来てしまったサイクリストはどうすればいいのだろう?
ビッグホーンシープ。
カナダでも見たが、角の小さなものばかりで、ここまで立派なのを見るのは初めて。
スノーキャニオン。
セントジョージは大きめの街で、自転車屋に片っぱしから連れて行ってもらったが、シュワルベはどこにもなかった。
チャイニーズレストランでごちそうに。
この日はフィルの家に泊まらせてもらうことになった。
この村の住宅はとても変わっていて、茂みに隠れて家がほとんど見えない。
平屋で、外から見えるのは一部だけだが、実際はすごく広い家。
多少妥協しても何とかしてここでタイヤを入手したかったのだが、セントジョージの自転車屋にはいいタイヤがまったくなかった。
一晩フィルと相談しながらあの手この手を考えたが、結論としては、翌日セントジョージからラスベガスまでバスで行き、ラスベガスでタイヤを買うことにした。
バスは平日は$19だが、金土日は値がはね上がり、この日は金曜で$29。
さらに自転車は積めないのでトレイラーを用意、超過料金$10。
税込トータル$42。
大型バスかと思ってたら、ワンボックス+トレイラー。
セントジョージとラスベガスを結ぶハイウェイ15は自動車専用道。
自転車で行く場合はバカみたいに遠回りしなければならず、当初3日がかりで行くつもりだったが、バスだとわずか2時間。
バスの中からラスベガスのビル群が見えた。
「TRUMP」と書かれた黄金のビルや、漆黒のピラミッドなどがあった。
バスの終着地は空港。
WARMSHOWERSホストと連絡をとっており、空港まで迎えに行くし家に泊まってもいいと言ってくれていたのだが、途中で連絡が途絶えてしまった。
仕方ない、あきらめるか。
ラスベガスには$18のホステルがあるが、金曜は$32にはね上がる。
金曜にラスベガスに行くのは最悪のタイミングのようだ。
$25のキャンプ場へ行くことにした。
空港まわりの道は複雑怪奇。
気温上昇、すっかり夏。
どうやら、間違えてアフリカに来てしまったようだ。
どこもかしこも黒人黒人黒人。
ホームレスがそこらに寝転がり、路上にはゴミやガラスの破片が散乱している。
車からはドコドコ系重低音が轟く。
ウォルマートの店員も黒人ばかりだった。
皆どこか動きがリズミカルだ。
タイヤの空気圧は可能な限り低くしているので、ボヨンボヨン弾みながら進む。
当然スピードは出ず、たいした距離じゃなくても長く感じる。
たどり着いたキャンプ場では、テントサイトはないと断られた。
ウェブサイトにははっきりとテントサイト$25と書かれていたのだが。
まあ、黒人浮浪者がウロウロしているようなところでテント泊なんて、セキュリティ上無理があるのだろう。
さらに10kmほど、American Campgroundというところに確実にテントサイトがあるとの情報。
今までこんなのなかった、ゲートでロックされたキャンプ場なんて。
レセプションに行くと、陽気な黒人女性がフレンドリーに迎えてくれた。
「自転車で来たって? 自転車はどこ? 早く中に入れなさい! 一瞬たりとも外に放置しちゃダメよ!」
「スマホを充電する時はゼッッッッッッタイにそばを離れちゃダメよ!」
「出かける時はテントに鍵をするのよ。ゼッッッッッッタイに貴重品を置きっぱなしにしちゃダメよ!」
大げさに注意喚起する人はよくいるものだが、彼女の言い方には妙に真に迫るものがあった。
テントサイト$14。
ラスベガスのあらゆる宿泊施設で最安かもしれない。
明らかに今までのキャンプ場とは空気が違う。
キャンプというのは、生活に余裕のある人がレジャーでやるものだ。
しかしここのキャンパーたちは、住む家がないからここでテントを張って生活している。
路上のホームレスよりワンランク上というだけの人たち。
マナーも悪く、痰を吐く音がキャンプ場にこだまする。
またタイムゾーンが変わり、現在日の出6:10、日没16:36。
あっという間に日が落ちる。
夜、WARMSHOWERSのホストからメールが来た。
「ゴメン、今君のメール見たよ。泊まる場所必要?」
僕はこれには返信せず、放置した。
鍵を持っていなければ部外者はゲート内に入れないが、外の路上には奇声を発する黒人がいて、ファッキンファッキンと大声で叫んでいるのが聞こえてくる。
たしかにファッキンな街だな。
翌日。
キャンプ場には2泊するのでテントに荷物を置いて空荷で自転車屋に行くつもりだったが、防犯のためテントをたたんで荷物をすべて積んで外出、こんなの初めて。
自転車屋までは20km、遠い。
必要なものが互いにべらぼうに離れているのが北米の都市の特徴。
もちろん事前に店のウェブサイトを調べてシュワルベの在庫があることを確認していたのだが、あっさり「ない」と。
ウェブサイトに在庫ありと書いたからには責任持ってくれやちくしょうめ。
はるばる20kmも走ってきたのに。
天下のアメリカで、なぜシュワルベが売っていない?
店員にコンティネンタルのツーリング用タイヤを薦められた。
シュワルベMARATHONに絶対の信頼を置くサイクリストとしては渋々だった、しかもこれから中南米へ突入するというのに。
でもコンティネンタルも見て触った感じ悪くはなさそうだった、というかもうこれを買う以外に選択肢はなかった。
$34×2。
ちなみにシュワルベもコンティネンタルも、いずれもドイツのメーカー。
タイヤぐらい自分で替えられるが、なんかやってくれるそうなので店員におまかせした。
バイト?っぽい若い女性はとても親切にしてくれたし(ポッキーくれた)、タイヤを替えてくれた男性は日本で震災後2年ほど軍で復興活動をしてくれたという。
これは頭が上がらない。
とりあえず、最優先事項であるタイヤ交換完了。
天下のアメリカで、タイヤ探しにこんな苦労するとは思ってなかった。
また20km走ってキャンプ場へ。
自転車屋までの往復で1日が終わった。
現在、コンセントがある場所でブログ更新している。
隣にいる男はイヤホンをせず大音量で動画を見ている。
ヨーロッパの底辺宿を思い出した。
こういうところにいる輩の行動習性はどこも一緒だな。
Las Vegas, Nevada, USA
32493km