2019年10月3日

ミズーラ

グレゴリーと娘のスカイ。


クラークストンは州境に位置しており、川を越えたらアイダホ州。

アラスカ州からカナダ、ワシントン州までは大麻合法で、今まで僕が出会った一部の人たちはごく自然にマリファナを吸っていたが、アイダホは違法。
日本では、大麻は違法というだけでなく倫理的にも悪のイメージがあると思う。
有名人が大麻所持で逮捕されたりしたら、二度と復帰できないほどだ。
同じ国で同じ物でも、州境を越えたら合法になったり違法になったり、善になったり悪になったり、というのは島国日本ではあまり考えられないことだ。
アメリカでは、死刑制度でさえ州によって異なる。
人がある物を悪と判断する根拠は、倫理的に悪だと思うからなのか、それとも法律で禁じられているからなのか。
調和と秩序を重んじる日本では、それが何であれ法を犯すこと自体が悪とみなされる。
盲目的なルール至上主義は思考停止人間を増殖させる。



川に沿って少しずつ高度が上がっていく。





アイダホに入ってから、電波がなくなった。
この州全体がそうなのか、それともこの僻地だけがそうなのか。
高いSIM代払ったのに(ぶっちぎりで過去最高額)、天下のアメリカでも100%カバーできてるわけじゃないのか。

120km走って、コースキアという小さな街。
今までで一番汚くてボロいキャンプ場、$15。
到着した瞬間に失敗したと思ったが、電源を取りながらテント内でネットできたし、必要なものはそろっていたから、実際それほど不満はなかった。
テントを張っているのは僕だけで、他の客はRVで完全に住みついているようで、白人より先住民や東洋系が多かった。

翌日。
晴天の乾燥地帯も束の間、一気に天気崩れて、雨。





また川に沿って登っていくが、とても緩やかで楽。
コースキアから次の街ミズーラまでの約240kmは、国立公園内のため街も店もほぼない。

国営キャンプ場で1泊。
だいぶ気温が落ち、冷え込んだ。



翌日もまた雨。



実に憂鬱。
雨よりいっそ雪が降ってくれた方がずっといい。

と思ってたら本当に雪。


まだ9月だけど。


ちょうど6年前、ラダックのカルドゥン・ラを攻めた時も、9月の雪に驚かされた。
でもあそこは標高5000m超の高地(緯度は九州と同じぐらい)。
ここは北海道より高緯度の寒冷地であるため、少し標高が上がっただけでもこうなる。
そして海岸よりも内陸の大陸性気候の方が厳しい(夏暑くて冬寒い)ということは今までの経験からもわかっている。

日中、-1℃。
しかしよく降るなあ。
標高が上がるにつれて激しくなるが、まだ少し水っぽく、一日降り続ける割にはあまり積もらない。



車が止まり、また「乗っていけよ」と言われた。
ありがとう、でもこんなおいしいところで車に乗るなんてありえないでしょう。

久々の雪上キャンプ。


興奮するねー。
テントを張ったらすぐにメシ。
うまい、楽しい。

つい2、3日前までTシャツだったのに、インナーとダウンを着用。
これだけ気温が落ちると、シャワーを浴びなくても気にならない。

夜は-7℃。
低温になると電子機器がまともに機能しなくなる。
ラップトップはものの十数分で落ちてしまった。
野宿の夜は動画を見るのが楽しみなのに。
スマホは当然、必要な時以外は電源を落としている。
iPodは小さいので体温で暖めて、問題なく使えた。
静かに音楽を楽しむ。

水が凍り始めたので、保冷バッグの中に入れた。
極寒地では凍らせたくない物を冷蔵庫の中に保管しておく、というのと同じ発想。

朝。


どんなに大切な自転車でも、こういう夜は鍵をかけてはいけない。
翌朝鍵穴が凍ってしまって解錠できなくなるから。



ブレーキ等がちゃんと作動するか、チェック。
リアディレーラーが凍って変速できなくなってしまっていたが、ちょっといじってやったら復活した。



幸い、路面は凍結していなかった。


前日、「Anti Icy Spray」と書かれた除雪車が走ってたから、そのおかげだろう。

野宿地から3kmほど進んで、ようやく峠に到達。
標高は1600mほど。
緩やかだったとはいえ、コースキアからかれこれ160kmも登り続けた。

立派なビジターセンターが現れた。


フリーコーヒー、Wi-Fi、コンセントあり。

この峠から、モンタナ州。


また時差。
1時間進める。



次の街ミズーラまで、緩やかに下っていく。







モンタナに入ってから、電波復活。

しばらく下って街に近づくと、雪が降った形跡はない。


標高1000mほどまで下り、ミズーラに到着。

今回のホストは、なんと年間200~250人ものサイクリストを泊めているという(主に夏季)。
事前のコンタクトで、
「ドアはいつも開いているから、いつでも入って勝手にくつろいでくれ」



到着した時、家には3人の住人がいた。
すでに僕のことは聞いていたようで、すぐに家の中を案内され、「あとはご自由にどうぞ」といった感じ。









キッチンも自由に使える。


シャワーもランドリーも、いつでも自由に使わせてもらえる。
ドアは本当に常時開いていて、出入りも自由。
まるでゲストハウス。





夕方、ホスト夫妻が帰宅した。
だいぶ年配の方。

もうハイシーズンは終わっており、ゲストは僕ひとり。
個室を与えられ、Wi-Fiもバッチリ、何一つ不自由ない。

翌日。
何だろう、ここ最近のこの眠さは。
休息はとっているし、そんな疲れてはいないはずなのに、眠っても眠ってもまだ眠い。
午前中十分にダラけた後、外出。

まずは腹ごしらえ。




アドベンチャーサイクリングアソシエーション。


アメリカ全土のサイクリングマップの作成や、自転車旅行の活性化などをおこなっている。





飾ってある自転車は、実際に旅で使われたもの。



日本人でも自転車旅をする人は少なからずいるが、その普及ぶりと歴史が違う。



今から130年も前に、アメリカ横断~日本~中国~インド~トルコまで走った勇者。


自転車旅のハードルの高さ、物の便宜さなどは現代とは比べようもないだろう。
でも、自分の足で未知の土地へと突き進んでいくスピリットは普遍的であると信じたい。



ほとんどの訪問者が欧米人の中、唯一(?)のアジア人として足跡を残しておいた。


宿代がかからない分、財布のひもがゆるんじゃうのよね。


わーい!


外観は簡素だが、中はけっこうにぎわっている。

ここは天国か。


全然中華っぽくないけど、アメリカ人にとってチャイニーズレストランはこんなもん。
でもウマイぞ。
店員は中国人。

ソフトクリームだけでも永遠に食べ続けられそう。


$13.49。
食べ放題としてはリーズナブル。
カナダの人口希薄地帯にこんな店が1軒でもあったら大繁盛するだろうに。
あの頃の飢餓状態の僕だったら、店をつぶしていたかもしれない。

翌日。
ダメだ、もう1泊させてもらう。
また際限なく眠って眠って、午後外出。









民家の庭に、シカ。




親子だろうか、そばを離れようとしない。


街中でもこんな標識がある。


アウトドアショップ。


テント購入。


$199。
床面積224×137cm、高さ107cm、重量2.4kg。
フライシート耐水1500mm、グランドシート耐水2000mm。

やっとテントを買えた。
北米でこんなにテントに困るとは思ってなかった。
昔はウォルマートでも安価で良質のテントが売っていたのだが、今はすぐにジッパーが壊れるようなおもちゃ同然のものばかり、しかも高い。
最大手アウトドアショップREIで売っているテントは、高級すぎて手が出ない。
ヨーロッパでは、ちょうどいい低価格で良質のテントが簡単に入手できたのだが。

思いきって有名ブランドを買ってみたが、テントの当たり外れは使ってみないとわからない。
グラウンドシートの材質がやっぱり気に入らないが、もうこれでやっていくしかない。

マットも購入。


$39。
今まで使っていたものとまったく同じ。

新古比較、1年半の使用でこんなペッタンコに。


冬がやってくるし、また雪上キャンプすることもあるだろうし、この辺で新調するのが妥当でしょう。

家に帰ったら、着ぐるみの知らない女がピアノを弾いて歌っていた。


一体何なんだろうな、この家は。
今家の中に誰がいるのかも把握していない。
ホストがいる時はできるだけ話をするようにしているが、もの静かでおしゃべりな人ではない。
明日の朝こそ出発するが、ちゃんとお別れのあいさつできるだろうか。

やっぱすごいよ、ウォルマート。


ああ、時間がたつのが早い。


Missoula, Montana, USA

29962km