2日目も峠越えのオンパレード。
思ってた以上に進まない。
国立公園に入るちょっと前ぐらいから不安定な天気で、夕方から夜に雨が降ることが多かったが、この日は日中も降った。
ぐっと冷え込む。
ホッキョクジリス。
こういう小動物は無数に見る。
起点から106km地点にある2つ目のビジターセンター。
もしかしたらここに多少なりとも食料が売ってたりしないかと淡い期待もしてみたが、やはり何も売ってなかった。
晴れていたらこんな風にデナリが見えるらしい。
この先で、グリズリーが現れたようだ。
すれ違うバスがいちいち停まって僕に注意を促す。
しばらく進むと、1台のバスとレンジャーの車が停車している。
この時は登りだったので僕は押して歩いていたのだが、近づくと僕のスピードに合わせてバスがゆっくりと動き出した。
グリズリーから見て僕がバスの陰になるように、つまりグリズリーが僕の存在に気づかないように護送してくれている。
レンジャーの車も後ろからついてくる。
そんな、、、ゆっくりじっくり見たいのに。
それでも、少し見えた。
初めて見る、グリズリー。
道路から30mほどの近さ。
親子。
顔つきも体格も毛色も、ブラックベアとはまったく違う。
日本語ではハイイログマというが、灰色ではなく、茶色と白を混ぜたような薄茶色で、思ってたより薄い毛色。
ある程度離れるとバスは停まったが、レンジャーの車はまだついてくる。
「写真撮ってもいいかな?」
「ノー。300ヤード(274m)離れるまでは止まっちゃダメだ。あの丘の上ぐらいが300ヤードかな。」
言われた通りその丘の上まで行き、後ろを振り返ると、もう影も形も見えなくなっていた。
残念。
ぼちぼち目的地のワンダーレイクに近づいてきた。
いや目的はデナリを見ることで、デナリにもだいぶ接近してきたはずだが、天気が悪くてどこにあるのやら、まったく見えやしない。
この日のキャンプ地ユニット14に突入。
またしても道路の眼下で、見晴らしが良すぎる。
しかも低木が生い茂り、容易には立ち入れない。
川もない。
ビジターセンターで申請した時にこういった詳細情報ももらえたらよかったのだが、大ざっぱな地図を見せられただけで、大ざっぱに見当をつけることしかできなかった。
なんとか草木の低い場所を見つけて、強引に踏み入る。
そのままじゃ無理なので、荷物を外して、自転車、荷物、荷物、と3回にわけて少しずつ運ぶ。
自然保護の観点からすると、わざわざ草木を踏み潰すよりは、道路際のちょっとしたスペースにテントを張った方がずっといい。
道路から何m離れたかわからないが、木の陰に隠すようにテントを張った。
また夕方から雨。
このキャンプ地からもデナリが見えるはずなのだが。
3日目の朝。
テントの窓を開けると、ドンヨリ。
ダメだこりゃ。
また自転車、荷物、荷物、と3回に分けて道路に運んでいく。
ようやく運び終わった頃、不意に晴れ上がった。
完全ではないものの、そのドッシリとした存在感に息を呑む。
「デナリ」は先住民アサバスカンの言葉で「偉大なるもの」を意味する。
以前の名称「マッキンリー」は第25代大統領の名前で、特にこの地と関係はなかったらしい。
地元では「デナリ」の名で親しまれ、オバマ政権時に正式名称を「デナリ」に変更した。
標高はそれほど高くないものの、個体としてのインパクトは独立峰ならでは。
高緯度に位置するため極寒でかつ気圧が低く、その厳しさがここまで伝わってくるようだ。
植村直己が1970年に初の単独登頂を果たし、さらに1984年に初の冬季登頂を果たし、その下山中に行方不明となった。
晴れたのも束の間。
まもなく、また厚い雲に覆われてしまった。
しばらく様子をうかがったが、雲は増大する一方。
再び晴れ上がる見込みはなさそうだ。
旅程は確定してしまっているので、天気待ちでもう1泊というわけにもいかない。
食料も余裕がない。
天気予報はまったく当てにならない。
出発前に複数の予報サイトを見たが、どれもバラバラで、何を信じていいのかわからなかった。
でも全体的にこの日は晴れると予測したサイトが多かった気がしたが。
デナリが見れないのなら、これ以上進んでワンダーレイクとやらまで行く意味もなく、ここで引き返すことにした。
またバスが停まって、グリズリーが出たから気をつけて、と言う。
気をつけてと言われたって、僕はワクワクしてしょうがない。
足早に進むと、、、いた!
やはりバスが停まっていたが、今度は十分距離が離れていたせいか僕に何も言ってこなかったので、立ち止まってゆっくり見つめた。
バスが去った後も、しばらくひとりで見入ってしまった。
親子で行動をともにし、厳しくもやさしい表情に、母なる自然を感じた。
晴れていたら、向こうの谷間にデナリが見えるはずなのだが。
と、写真を撮っていたら、よく見たらさっき通ったばかりのふもとでグリズリーが道路を横断しているではないか。
道路工事の人たち、どう見ても300ヤード離れてないよね。
あんな近くで見てみたいものだ。
思えば、西アフリカでの僕はグリズリーのような存在だった。
行く先々で大注目され、容赦のない視線を注がれ、遠方から囃し立てられからかわれ、振り向かせようとして手を叩き、でも怖いから近づこうとはしない、こちらから近づこうとすると全力で逃げていく。
もしグリズリーが人間に対してストレスを感じているとしたら、僕にはその気持がよくわかる。
居住者・来訪者の関係が逆ではあるが。
3日目のキャンプは初日と同じユニット9だが、違う河原にテントを張った。
本当に不安定な天気で、この写真を撮った直前も直後も雨が降った。
4日目。
もう帰るだけだが、この先の道も容易ではないことがわかっている。
帰り道、後ろを振り返ると、
デナリ!
晴れてる。
昨日のキャンプ地、今頃デナリがはっきりと見えてるんだろうな。
今さら戻ることもできない。
悔しい~。
天気。
こればっかりはどうしようもない。
夏のデナリの晴天率は20%らしい。
アンカレッジからここへ向かう道中できれいに見えたデナリは、その20%だったのだ。
とにかく腹が減ってしょうがない。
晩飯は1食の分量をはっきり決めているが、パンとか菓子とかは、あればあるだけ食べようとしてしまうので、多めに買ったつもりでも4日目にはわずかしか残っていなかった。
チューブ式のイチゴジャムを重宝した。
休憩するたびにこれをチューチュー吸って糖分補給。
4日目の午前中に空になった。
食料は限られているが、水は豊富にある。
生水は飲んではいけないというルールもあったが、これは長年の経験とカンで、飲める水かどうかは自分で判断できる。
午後は雷雨。
5mmほどの雹が身体に打ち付ける。
あと少しで終わるのに、簡単には終わらせてくれないのね。
16時、ビジターセンターに帰還。
走行距離はたいしたことなかったが、4日間フル稼働だったな。
天気はちょっと残念だったけど、シャトルバスでもなくキャンプ場でもなく、生身で体ひとつで、この大自然と向き合えた経験は宝物だ。
Fairbanks, Alaska, USA
23265km