2019年6月22日
デナリ国立公園 1
まずはビジターセンターで情報収集。
パークスハイウェイから国立公園内を西へ、148kmほどのパークロードがある。
起点から24kmのサベージ川以降は環境保護のため一般車の通行は制限されており、多くの人はシャトルバスを利用する。
自転車は通行可。
僕は終点近くのワンダーレイクまでの往復を3泊4日の旅程で行く。
パークロード沿いにいくつかのキャンプ場があるが、予約が必要。
(キャンプ場の予約はビジターセンターより手前のライリークリークで)
今はハイシーズンで、いきなり今日明日の予約を入れようとしても無理のようだ。
そもそも自分のペースでちょうどよさそうな場所にキャンプ場がないし、3泊とも野宿で行く。
野宿するにはパーミットが必要。
バックカントリーパーミット
キャンプ場以外の場所でキャンプするためのパーミット。
①DVDを見る。
日本語字幕もあり。
公園内での厳しいルールや安全の心得などが紹介されている。
②日取りと場所を決める
公園内は数十のエリア(ユニット)に区分けされており、どの日にどのユニットでキャンプするかをこの時点で決めなければならない。
ユニットも人数制限があり、ホワイトボードに現在の状況が書かれているので空きを見つけて選ぶ。
③申請用紙に記入
基本的な個人情報から、服の色やテントの色など、細かい質問に答えていく。
④誓約書にサイン
日本語の誓約書を用意してくれる。
20項目ほどのルールのおさらいをしてチェックしていき、サインする。
⑤パーミットタグをもらう
パーミットを得た証明としてテント用タグと自転車用タグをもらい、キャンプ時にそれぞれ取り付ける。
⑥ベア缶と呼ばれる食料保管ボックスの携行が義務付けられており、それを借りて完了。
パーミットは無料。
国立公園入園料も無料。
食費がクソ高くつく分、こういう経費を無料にできるのはありがたい。
公園内に店はなく、携帯の電波も入らない。
いざ出陣。
ウィリアムの家を出たのが遅かったのもあり、ここでの情報収集やパーミット取得に時間がかかってしまったのもあり、出陣したのはもう昼近くになっていた。
ビジターセンター周辺では、僕の自転車を見て多くの人が話しかけてくれた。
自転車旅行はポピュラーでめずらしくないはずだが、荷物の多さを見て長旅しているとわかるのか、励ましの言葉をかけてくれた。
ちょっと、いやかなり、見くびっていた。
初っぱなから長い長い登りで、標高1000mを越える峠。
その後もおよそ900~1300mほどの範囲でアップダウンがえんえん続くことになる。
起点から24kmのサベージ川で舗装道路は終了、これより先は未舗装となる。
路面の質は悪くないが、未舗装よりアップダウンの影響の方がはるかに大きい。
サベージ川から一般車の通行が制限され、すれ違う車はほとんどシャトルバス。
このシャトルバスが、けっこうな頻度で行き交う。
路面は中央の方が踏みならされているのでなるべく中央寄りを進みたいのだが、バスが来るたびに端に避けてやらなければならない。
バスは僕に砂埃を食らわせないよう、また安全のためか、減速したり場合によっては停止してくれたりする。
やさしいな。
でもやはりこの大自然で車のエンジン音は不快なものだ。
環境保護というなら電気化すればいいのに。
テクラニカ川からセーブル峠までが、パークロードで最も長い登りと思われる。
セーブル峠(標高1300m)。
標高は腕時計による計測なので正確ではない。
この時、20時。
キャンプ予定地はまだまだ先だ。
カリブー。
ようやく、この日のキャンプ地ユニット9のエリアに突入。
路上にユニットナンバーの標識はなく、無料でもらえる地図にも表記されていないので、ビジターセンターでユニットの地図の写真を撮っておく。
やっかいなことにルール上、キャンプ地は道路から0.5マイル(804m)以上離れたところで、かつ道路上からテントが見えてはならない。
どうしてこんなルールがあるのかと聞いたら、ここを訪れる人は素のままの自然を見に来ているので、テントが目に入ってしまうと景観を損ねるのだという。
それに大半のキャンパーはハイキングをしており、道路からはるか離れた山陰にテントを張る。
少数派のサイクリストは考慮されていない。
時々サイクリストを見かけるが、全員軽装備。
フル装備で来ている愚か者は僕以外いない。
荷物満載の自転車で道路から800m離れることがどれだけ大変なことか。
そして道路は崖の上につくられており、ユニット9はその眼下。
見晴らしが良すぎてどこにテントを張ろうが見えてしまう。
狙い目は、河原しかない。
川をしばらくジグザグ下っていって、一応死角になるであろう場所にテントを張った。
この時、22時。
スタートが遅かったとはいえ、こんなにオーバーワークしたことは今までなかった。
もうシャトルバスも運行してない、どうせ誰にも見られない。
クマ対策の観点からすると、視界の開けた広い場所にテントを張るべしと教わった。
でも道路から見えないようにするには、視界の開けていない狭い場所に張らざるをえない。
このふたつは両立できない。
テントの周辺もカリブーの足跡がいっぱい。
フンもいっぱい。
シカ系のフンはどれも団子状になるのね。
河原キャンプは久しぶり。
近くに無限の水が流れているというのはキャンプする上で何かと便利なものだ。
食料、ゴミ、歯磨き粉などはベア缶に入れて、テントから100ヤード(91m)離す。
テント、ベア缶、炊事場は互いに100ヤード(91m)離さなければならない。
DVDでも言っていたが、重要なのはクマの思考回路の中でテントと食料を結びつけさせないこと。
一度でもテントの中で食料を発見したら、そのクマは一生涯「テント=食料」と思考し、テントを襲い続ける。
自分を守るためだけでなく、後の被害者もつくらないようにしなければならない。
クマはとにかく鼻がきく。
1.5km先の匂いも嗅ぎつけるという。
これだけ脅されたら、さすがに怖い。
調理中はしょっちゅう後ろを振り返り、テント内にいる時はちょっと物音や鳴き声が聞こえただけでも外の様子をうかがってしまう。
でも疲れ切った身。
怖いのは起きているときだけで、眠りに落ちてしまえばぐっすり熟睡。
現在、日の出3:30、日没0:30。
日没後も、本当に日没したのかと疑うほど明るい。
冬には極夜となり、1日の大半が闇夜となる。
こういった環境で、動物たちはどういった時間感覚をもって1日のサイクルをとらえるのだろう?
クマも人間と同じ時間帯に寝てくれればキャンプ中に襲われる心配もないのだが。
僕は今もし時計を失ったら、今が昼なのか夜なのか、いつ寝ていつ起きるべきなのか、よくわからなくなりそうだ。
真偽は確認していないが、ウィリアムの話によると、過去にデナリ国立公園でクマに殺された人間はひとりだけ、その人は写真を撮るために不用意にクマに接近しすぎて殺された。
それぐらい無謀なことをしない限り殺られる可能性は低い、と自分を安心させておく。
Nenana, Alaska, USA
23171km