手作り掘っ立て小屋のポリスで出国スタンプをもらう。
「どこから来た?」
「ヌゼレコーレ。」
「あーん?」
「・・・」
「どこから来た?」
「ヌゼレコーレ。」
「あーん?」
その「あーん?」って言うのやめてくれないかね野蛮人。
はっきり明確に答えてるんだから一度で聞き取れよ。
そもそも手前の大きな街はヌゼレコーレ以外ないじゃないか。
警官は僕のパスポートを隅から隅まで見ながら、また無意味なノート記入。
スタンプするまで10分もかかった。
1kmほど進んだところでミリタリーチェック、パスポートを見せるだけで何もされない。
コートジボワール側
ギニアと違ってイミグレーションの建物は新築で真新しく、周囲の風景に溶け込んでいない。
窓口でまたノート記入。
職業、滞在先、日本の住所、日本の電話番号、あれこれ聞かれてスマホで顔写真まで撮られた。
えらい時間をかけてノート記入が終わったと思ったら、「コートジボワールのビザはどこだ?」
僕はイラッとしてパスポートを取り上げてビザのページを指さし、「遅いよ、とっとと終わらせろ。」
それから建物の反対側にある窓口に行けと言われた。
何このムダな手順。
反対側の窓口に行くと、「座れよ。」
「座れよじゃない、とっとと終わらせろ。」
僕は立ったまま睨みつけ、早くスタンプするよう促した。
信じがたいことに、またノート記入を始めた。
「職業は?」
「いいかげんにしろ。さっき同じこと聞かれたよ。」
何のためにビザを取ったと思ってるんだ。
高い金払って2日も待たされてビザを取ったんだぞ。
その時点で入国許可は出てるんだ、ここでやるべきことはビザページを確認してスタンプするだけ、10秒で終わる。
と言ってやりたかったが英語通じなさそうだったし、こんな末端の係員に文句言ったところでどうにもならない、とにかく急がせた。
「Time is moneyって知ってる? これ以上時間かけたらこっちから賄賂要求するぞこのウスノロ。」
イライラ全開の僕に苦笑する係員もいたが、ノート記入してるヤツにはもう質問させず、ちょっとでも動きが止まったら「早くしろバカ」と急かして、ようやくスタンプをもらえた。
所要トータル50分。
両替屋は確認しなかった。
コートジボワールの通貨はセネガルやギニアビサウと同じCFA。
余るほど持っていたので両替の必要はなかった。
カタカナで「コートジボワール」と言われても何のことやらわからないが、フランス語の「Côte d'Ivoire」を英語にすると「Coast of Ivory」、つまり「象牙海岸」。
英語では通常「Ivory Coast」と呼ばれる。
15世紀にオランダ、ポルトガル、イギリスなどがここで象牙と奴隷の貿易をおこなったことから「象牙海岸」と呼ばれるようになった。
ちなみにガーナは「黄金海岸」、ベナンやトーゴなどは「奴隷海岸」など、オブラートに包まないストレートなネーミングがなされ、コートジボワールだけが当時の名称をそのまま国名とした。
19世紀からフランスの植民地となり、1960年独立。
初代大統領の功績で経済は好調に成長し、西アフリカでは優等生国家。
しかし初代大統領の死後、クーデターや内戦が1999年から2011年まで続き、政情は不安定であった。
ひどい道。
街までまだ50kmもあるというのに。
国境越えでいつも以上にイライラしてしまったのはこのせいもある。
日没までに街にたどり着けるか、時間をムダにせず進みたかったからだ。
しかしまもなく舗装復活。
できたてホヤホヤのニューロード。
これなら日没前に街に着ける。
サンキュー、シノワ!
ここでは、「バブーバブー」と呼ばれる。
もはやギャグのようだが、子供たち、時に大人も、僕を見て「バブーバブー」と声を上げる。
また、「トゥリスト」とも呼ばれるようになった。
旅行者に対して「旅行者!」と呼びつけるのも奇妙だが、間違いではない呼び方をされたのは初めてだ。
「バブー」はどうせ「白」だろうよ。
アフリカでは人を呼ぶ時に「スッ」と歯の間から息を出す、と以前書いたが、いつしか「スッ」ではなく「チュ~」と吸い付くような音を発するのが主流になった。
「チュ~、チュ~」
「バブーバブー! バブーバブー!」
「チュ~、チュ~」
「トゥリスト! トゥリスト!」
僕は日没までに街へたどり着こうと必死なんだから、あまり笑わせないでくれ。
無事ダナネに到着。
思ってた以上に舗装箇所が多かったおかげだが、悪路とアップダウンと国境越えありでよくぞ130km走った!
Hotel Graceで2泊。
1泊5000CFA(923円)。
良心的じゃないか。
そしてありがたいことに、電気が24時間使える。
首都でもない地方都市なのに。
確実に今までよりレベルアップした感触。
経済が正常になれば物価も正常になる。
あくまで比較だけど。
サンドウィッチ、なぜかタダでくれた。
主食は米じゃないらしい、何だろうこのおからみたいなの。
またOrangeでSIM購入。
12GBで1万CFA(1846円)。
ただし午前6GB、午後6GBで打ち止め、という午前と午後で別々に制限を設けている変わったプラン。
僕なんかは圧倒的に夜ネットすることが多いから、朝も使うようにしてバランスをとる必要がある。
ショップの人は英語が話せた。
ドッと疲れが出た。
酷暑、未舗装、山道、栄養失調。
でもこの先のルートは楽勝と思われ、安心したら緊張がほぐれて、体が重くダルくなった。
Duekoue, Côte d'Ivoire
22235km