天気が悪いことを除けば、走行条件は良い。
アップダウンはほぼなく、フラットでしかも追い風。
自転車通行可の一般道がまっすぐ伸びており、しかもジャンクションには必ずわかりやすい標識があるので、いちいち立ち止まってマップチェックすることなくスムーズに進める。
この日は110km走行。
日が沈んだ後、寝場所を確保。
暗闇の中、買ったばかりの新しいテントを張る。
夜はずっと雨だった。
朝、まだ日が上らぬうちから走行開始。
暗闇走行はやりたくないが、距離を稼ぐ必要がある時はやむを得ない。
ドイツのスーパーは本当に安い。
少なくともスーパーの品だけで比較したら、東欧より安い感じがする。
これから物価の高いデンマークへ向かうので、今のうちに食料をしこたま買い込んでおく。
ポーランドへ再入国。
いや目的地はデンマークなのだが、フェリーの発着港がポーランドなのだ。
海を渡るフェリーの港へ行く途中、川を渡るフェリーに乗る、めんどくさいなあ。
ポーランドにいる時間はわずかなので、これだけのためにポーランドズォティをおろしたくはなかった。
幸い、このフェリーは無料だった。
この日は124km走行。
日没ギリギリで港に到着。
フェリーの出発は深夜1時。
日本だったら24時間営業のファミレスとかネットカフェでいくらでも時間をつぶせるが、もちろんここにはない。
港の近くの森で、暗闇の中、雨に濡れながらテントを張る。
食事をすませて、仮眠をとる。
フェリーのチケットはオンラインで購入済み。
€52。
6時間半の航海にしては高い。
夜に乗って朝に着くのなら宿泊も兼ねている、にしても高い。
運が良ければシャワーを浴びたり充電できたりするかもしれない。
過去に何度もフェリーに乗ったことがあるが、どのフェリーもシートが多数あり、指定席であれ自由席であれ、座って寝ることができた。
しかしこのフェリーは、シートがない。
ほぼすべての乗客が、キャビン(客室)を確保するようだ。
もちろん莫大な別料金がかかる。
キャビンを確保していないのは僕だけのようで、唯一の狭いソファで横になって寝た。
そしてシャワーもなければ充電もできなかった。
€52もふんだくっておいてこの扱いはひどい。
朝7時半、スウェーデンに到着。
いや目的地はデンマークなのだが、フェリーの発着港がスウェーデンなのだ。
バルト海。
今回の旅で初めての海。
この港街から40kmほど北上してマルメーという街まで行かなければならない。
しかし、強烈な向かい風。
そして雨。
たかだか40kmといえど、こういう時はとても長く感じる。
雨天走行は良くない。
人一倍健康体で免疫力も強い僕だが、雨天走行をしている時は、身体が「やめて~」と言っているのが聞こえてくる。
ゴアテックスのレインウェアの防水力は頼もしい限りだが、顔面には常に冷たい雨が打ち続ける。
グローブもゴアテックスだが、手首のところにどうしてもわずかな隙間ができてしまって、少し濡れる。
靴も、もともとはいいヤツなのだが、さすがに9ヶ月も履いていると防水性は失われ、つま先からジワジワと濡れてくる。
時折現れるGSに併設されている店で、コーヒーでも飲んで暖まりたい誘惑に駆られたが、これだけのためにスウェーデンクローナをおろしたくはなかったので、耐えた。
統一通貨ユーロなんていっても、ユーロを導入していない国は多い。
全然統一されてないよ。
マルメーからデンマークの首都コペンハーゲンまでは、海上に橋が架けられている。
しかし例によって、自転車歩行者は通行禁止。
長さ16kmもある橋だから、これは仕方ないか。
先日紹介した、WARMSHOWERS。
これは宿泊提供に限ったことではなく、その土地の会員に質問メールを送ってもいい。
「この橋を渡るにはどうすればいいのか?」
複数の方から回答をいただいた結果、電車もこの橋を走っており、自転車も一緒に乗ることができる、ということがわかった。
僕は誰よりも電車やバスに乗るのが苦手で億劫で、誰かと一緒の時はその人に任せっきりで自分は何もせずついていくだけ、ということが多い。
こういうのっぴきならない状況になって初めて、嫌々ながらも自分でなんとかする。
「全然難しくないよ、簡単に乗れるよ」と言うが、それは地元の人だからであって、外国人の僕から見たら、自分の国の電車とは勝手が違う。
こっちの駅には改札というものがないので、チケット無しでも乗ることができてしまう。
でももちろん、券売機でチケットを買う。
案の定、わからない。
いくらタッチパネルを操作しても、「自転車」というオプションが出てこない。
こっちの駅には駅員というものもいないので、わからない時はその辺の人をつかまえるしかない。
人から教わって、ようやく「自転車」のオプションが現れて、チケット購入。
クレジットカードを持ってる人なら券売機にカードを挿して支払えるが、僕は結局ATMに行ってこれだけのためにスウェーデンクローナをおろした。
チケット大人1枚110クローナ + 自転車1台55クローナ = 165クローナ(2053円)。
ファッキンエクスペンシブ!!!
ちょっと電車に乗って橋を渡るだけで2000円って、こっちの人にとっては200円ぐらいの感覚なのかな。
エレベーターに乗ってホームへ。
電車が来たら、自転車やベビーカーのマークが描かれた車両を見つけて乗り込む。
ベビーカーを押すママさんたちも、僕と同じ車両に駆け込む。
この人たちも2000円払ってるのかな。
温度差でレンズが曇ってしまってうまく撮れない。
しばらくすると駅員がやってきて、チケットの提示を求められた。
この時チケットを持ってなかったら、多額の罰金が課せられるらしい。
これに関しては日本の自動改札の方がずっと効率的だと思う。
やっとこさ無事、コペンハーゲンに到着。
デンマークは大陸と続いた本土を持ちながらも、首都コペンハーゲンがあるのは海に囲まれた島、そして小国ながらグリーンランドという世界一巨大な島をも領有している、一風変わった国。
デンマーク人は大まかな括りではゲルマンだが、ノルマン人すなわちヴァイキングの一派であり、民族的にも言語的にもノルウェー人やスウェーデン人やアイスランド人と近い。
立憲君主制国家であり、どこかに女王がいる。
シェイクスピアの「ハムレット」も、デンマークの王子という設定だった。
バーガーキングにて、ワッパーセット71クローネ(1222円)。
ワッパーってこんなショボかったかな、もっと重量感あったと思うけど。
コーヒーがセルフサービスでおかわり自由なのはいい。
物価が高いのは重々承知の上だが、一応Booking.comで料金を調べてみると、最安のドミトリーでも300クローネ(5166円)。
ファッキンエクスペンシブ。
(後日調べ直してみたら2000円以下の安宿も存在したが、僕が到着する直前はこれが最安だった。)
そこでまた、WARMSHOWERSの出番。
いやまったく、神様仏様WARMSHOWERS様様だ。
西ヨーロッパだから承諾率が高いのだと思うが、僕もだいぶコツをつかんできた。
会員のプロフィールに書かれている情報から、ある程度カテゴライズできるようになった。
最も承諾率が高いのは、ルームシェアしている若い男性。
通常の一軒家やアパートに比べてプライベート性が低く、空室がなくてもリビングでゲストを一晩寝かせるぐらいなら何の問題もないようだ。
東京で僕が住んでいたシェアハウスは、部外者は立入禁止だった。
それでもリビングに友人を呼んで食事したりおしゃべりしたりすることはあったが、泊めてあげるほどのスペースはなかった。
仮に泊めてあげることができたとしても、他の住人が管理会社に通報する可能性が高い。
スペースの狭さより心の狭さに起因しているのかもしれない。
あと、夫婦またはカップルの承諾率も高い。
一対一よりも二対一の方がもてなしやすいという心理が働くのかもしれない。
一番ダメなのが、やはり女性。
プロフィールには「Welcome!」なんて書いておきながら、メッセージを送るとガン無視か、返信が来ても「その日は家にいないからムリ」みたいになんとも素っ気なく断られる。
女が男を警戒するのは当然だが、それなら「男性ゲストお断り」とか書いておいてくれれば、こっちもメールする手間が省ける。
それから、最終ログインが1年以上前の人なんかも、まず返信が来ることはない。
やたら無闇にリクエストメッセージを送るのではなく、プロフィールをよく見てふるいにかけた方が効率が上がる。
ゆっくり観光する余裕もなく、翌朝出発。
右から、歩道、自転車道、路駐、車道。
日曜日の朝なので誰もいない。
ここまで広くしてくれなくてもいい。
自転車屋も非常に豊富にあるが、日曜日なので全閉。
日本のママチャリもこういう形にすれば安全に子供を乗せられると思うけど、道が狭いからダメか。
いやでも、一昔前の日本にも、三輪車のママチャリってあった気がする。
今やBMWも電気。
天気も悪いし、物価も高いし、かつてないほど雑な都市観光になってしまった。
Eskilstrup, Denmark
12096km