ラーユーンから次の街ブジュドゥールまで188km。
2日の行程。
道路が砂没しないように、砂かき。
予報に反して、西風。
横風だが、横風も向かい風のうち。
結局向かい風かよ。
世界最大の砂漠、サハラ砂漠。
「荒野」を意味するアラビア語が語源。
総面積はアフリカ大陸の3分の1を占め、アメリカ合衆国の面積に相当する。
(ラウンド2で旅したスーダンやエジプトの砂漠も広義のサハラ砂漠に含まれる)
そのうち、一般的にイメージされるような一面の砂世界は一部にすぎず、大部分は礫砂漠や岩石砂漠。
ナミブ砂漠なんかでも、旅行者や写真家たちの写真を見て、見渡す限り一面砂の世界を期待してしまったが、写真のトリックのようなものだ。
草もけっこう生えてる。
はちきれんばかりに水分をたっぷり含んだプニプニの植物。
雨が降った時に水がたまりやすい溝にたくさん生えている。
花も咲いてる。
キャンプ地選びに悩む。
風を遮る壁も直射日光を遮る屋根も、どこにもない。
もうどこでもいいか、とあきらめてちょっとした盛り砂の陰にテントを張った。
リスボンのデカトロンで買ったこのテント、やはり遮光性に優れている。
直射日光下でもそれほど暑くない。
風は、それほど強風でもないし、日が沈んだら止む。
夜、満天の星空。
朝、朝露でテントも自転車もびっしょり濡れていた。
昼、依然として西からの横風。
ラーユーンから107km地点のLamsidにGSとレストラン1軒あり。
生活感ある村ではなく、軍か何かの施設のような集落。
検問にうんざりする。
街の手前やジャンクションではもちろん、特に何もないところにも検問があり、必ず止められる。
パスポートを見せて1~2分待つだけなのだが、自分の意志に反して止められるのは気分良くない。
必ず職業を聞かれるのだが、いくらでもウソが言えることをなぜ聞くのだろう。
電話番号や宿名を聞かれることもある。
でも、警察や軍の人が良すぎて怒れない。
「Welcome to Morocco! This is your country!」
こんなセリフ、なかなか出てくるもんじゃない。
(てゆーかここモロッコじゃないだろ)
水は足りてるか、とか心配してくれる。
モロッコ人の人柄がよく表れている。
「ドコニイキマスカ?」と日本語を話せる警官もいた。
最後に「ヨイタビヲ!」と。
こりゃ驚いた。
ブジュドゥールで1泊。
新しめでそこそこの規模の街。
ホテルは数軒あるが、今までと比べると割高。
スーパーや売店がなかなかない。
カフェだけはいくらでもあり、ヒマそうな男たちがサッカー観戦している。
ブジュドゥールから次の街ダフラまで348km。
3日の行程。
海岸沿いには数kmおきに海上警備か何かの掘っ立て小屋がある。
そこではイヌが数匹飼われており、いちいち威嚇しながら追いかけてくるのでうっとうしい。
僕が立ち止まると、イヌも途端におとなしくなる。
走り始めるとイヌもまたスイッチが入って再び追いかけてくる。
農村の少年たちと同じ習性。
ブジュドゥールから90km地点にレストランあり。
これはGoogle Mapsには載っていない。
無風の午前中に距離を稼ぎ、午後は横風との戦い、というのが日々のパターンになった。
北東貿易風なんてこれっぽっちも吹かないので、もう考えないことにした。
でもこの涼しさには救われる。
日中20℃前後。
これで灼熱だったら過酷だろうな。
横風の中、145km走行してたどりついたPetrom Sahara。
GS、レストラン、売店、肉屋、モーテルあり。
メニューを選ぶ余地はなく、すでにできあがって冷めきっている魚を出される。
ちなみにローカルなレストランでは、フォークもナイフも出てこない。
地元民は、パンをちぎってパンで具材をつかんで食べる。
僕もなるべく地元民に倣うようにしているが、パンで骨だらけの魚をつかみ食いするのは難易度が高く、ギブアップしてフォークをもらった。
タジンなんかでも、鍋の底でちょっと焦げついた具をパンでつかむなんてやってられず、フォークで削り取った方が早い。
食事ついでにここで水や食料もまとめて買ったら、ありえない額だった。
こういうところでは物価が高くなるのはわかるが、ぼったくられた可能性が高い。
モーテルは1泊100ディルハム(1151円)。
電気が通るのは夜間のみ。
言うまでもなくWi-Fiなし。
部屋に鍵なし。
シャワーはバケツに冷水を汲んで水浴び。
これでこのお値段とは、ずいぶんだな。
他に労働者っぽいのが多数(全員男)泊まっていて、深夜まで騒がしかった。
ドアを開けて大音量で動画や音楽を鳴らす、労働者の習性はどこへ行っても同じだな。
僕がこの日キャンプせずここに泊まったのは、翌日キャンプになる予定だったので、もっぱら水浴びが目的。
冬のヨーロッパでは数日シャワーを浴びなくても平気だったが、今は潮風を浴びながらの走行で身体はベタベタ、2日連続で水浴びしなかったらちょっと嫌だなと思ってここに泊まった。
それを気にしない人だったら、ここに泊まるのは絶対オススメしない。
路肩未舗装だが、交通量が少ないので走りやすい。
ドライバーはさぞかし眠いだろうな。
僕だったらきっと運転しながら寝る。
時々、対向車がライトを点滅させて手を振ってくれる。
クラクションを鳴らさずにあいさつしてくれるドライバーに対しては、僕も笑顔で手を振って応える。
クラクションを鳴らしながら手を振るやつに対しては、下を向いたり顔をそむけたりして、拒絶の意思表示をする。
無音であいさつされて、僕が手を振った直後に一発「ブッ」と鳴らす卑劣なヤローもいる。
クソッ、手を振って損した。
純粋な意味での野生のラクダは現存していない。
これは放牧されているのか、それとも元家畜が野生化したのか。
ゆっくりのんびり動いているが、僕が接近すると逃げてしまう。
だいぶ近づけた。
これ全部、水分をたっぷり含んだあのプニプニ。
こんなんもう砂漠じゃない。
サハラがここまで砂漠感がないなんて。
サハラウィ(西サハラ人)のテントに招かれた。
サハラウィは、モロッコ人とは異なる西サハラの遊牧民族。
同じアラブ人なので見分けはつかない。
一体ここで何をしているのか。
どうやって生活しているのか。
モロッコ人のことをどう思っているのか。
疑問はつきないが、言葉の壁で何も聞けない。
ただ、日本人だと答えるといいリアクションをしてくれる。
ラクダのミルク。
強い酸味と臭味、いかにも手作りな感じ。
クセの強いヨーグルトみたい。
前日泊まったPetrom Saharaより30km地点と90km地点にサービスエリアあり。
GS、レストラン、売店、肉屋などあり、宿はなし。
おかしい...バンの荷台にラクダ5頭って、おかしい。
プニプニの水分含有量はすごい。
踏むと大量の水がドバッと噴き出る。
自転車のタイヤも濡れて、そこに砂が付着してみるみる泥まみれになる。
すっかり油断していたが、突然テントの前に人の気配がした。
見ると、徒歩でパトロールしているひとりの軍人。
彼にとっても、テントの中にいるのがどんな人間なのかわからない、声をかけるのは警戒するだろう。
まずは握手をして、お互い敵意がないことを確認する。
ここでキャンプするのは問題ないようだが、パスポートの提示を求められ、僕の名前などをメモしていた。
Dakhla, Western Sahara
18237km